代表のコラム

ストレスは万病のもと

先日、東京で開業していた時の患者さんから相談メールが来ました。

彼女の娘さんの上司(34歳)が自宅の布団の中で突然死され、そのショックで娘さんは食事を受け付けず、会社に行くと耳が痛くなってしまう症状が続いている。病院に行くように言っているのに行く気配はなく、娘が心配で、・・・という内容でした。

上司の方は家庭の問題でかなりのストレスを抱えていたらしいのですが、特に健康面での問題はなく、亡くなられる前日も普通に仕事をされていたそうです。娘さんと上司は、他の同僚たちと一緒に休日に出掛けたり、仕事帰りに一杯飲んだりと親密なお付き合いがあったとのこと。そんな身近な存在が34歳の若さで突然亡くなったとあれば、娘さんのショックはいかばかりだったでしょう。

患者さんには、耳の病気は早期に治療しないと慢性化しやすこと、重大な病気の可能性もあるので娘さんに必ず耳鼻科で検査を受けてもらうこと、そして、休職を前提に心療内科で相談してみることを提案しました。

上司の方の死因とストレスの関連はわかりませんが、おそらく娘さんはPTSD(心的外傷後ストレス障害)だと思います。その後どうなったのかはまだ聞いていませんが、まずは耳鼻科に行ってくれているといいのですが・・・。

私たちの日常はストレスで溢れている

ストレスとは「外部から刺激を受けたときに生じる心と体の緊張状態」のことと定義されています。
ストレスとなる要因を「ストレッサー」といい、その種類は5つに分類されます。

①物理的ストレッサー

温度、光、音などの物理的な環境刺激のこと。
部屋の温度が暑すぎる・寒すぎる、照明がまぶしすぎる・暗すぎる、オフィスがうるさすぎる・静かすぎる、近所の工事現場の音や自動車、頭上を飛ぶ飛行機の音がうるさい、といった自覚できるものから、パソコンやスマホの画面から目にはいってくる光、夜間のコンビニエンスストアの店内や店舗や看板などの屋外照明も体にとっては害になります。

②化学的ストレッサー

化学物質や有機溶剤、金属、タバコ、アルコール、薬物、食品添加物といった化学物質によって生じる刺激のこと。
粉塵(ふんじん)や有害ガス、ホルムアルデヒドなどの有害物質、臭気、煙、熱、水蒸気によって汚染された空気、酸素の欠乏や過剰など。またカップラーメンや香辛料の強い料理から生じる匂いも化学的刺激のひとつです。

③生物的ストレッサー

花粉、ウイルス、細菌、微生物といった接触することによって生体の免疫反応を引き起こし、感染症や炎症の原因となる刺激のこと。
スギ・ヒノキなどの花粉、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、大腸菌、コレラ菌、白癬菌、カンジダなど。生体をおびやかす様々な感染症の原因です。

④心理的ストレッサー

不安、焦り、いらだち、怒り、緊張、抑うつといった感情をともなう人間関係や仕事上の問題のこと。
仕事の納期や試験の終了時間が迫っている、ノルマや目標の達成、仕事上の義務、親や社会から求められるあるべき姿、失敗できない大きな仕事、過大な要求、理不尽な扱い、上司や教師からの叱責、同僚が先に出世した、結婚できない、妊娠できないなどなど。普段私たちが「ストレス」と言っているものの多くはこの心理的ストレッサーから来るものです。

⑤社会的ストレッサー

雇用形態や経済状態の変化、戦争、政情不安、情報過多、過密な都市生活、疫病といった社会情勢によって受ける刺激のこと。
AIの導入で今の仕事がなくなるかも知れない、コロナ禍が治まらない、近隣諸国の軍事的脅威、政情不安、インターネットやSNSによる情報の氾濫、自然災害の頻発など。自分の力ではどうすることもできない事柄なので対応が難しいストレスです。

通常は気候変動、災害、病気といったネガティブなものがストレッサーになりますが、結婚や出産、昇進といった喜ばしい出来事もストレッサーとなる事があります。
こうやって見てみると、私たちの日常は様々なストレスで溢れていますね。

ストレスを感じると体は臨戦態勢に入る

私たちがストレスを感じた時、体はどんな反応を起こしているのでしょう?
ストレッサーを感知すると、まず脳にある「扁桃体(へんとうたい)」という情動反応の処理や記憶を司る部位が活性化し、大量のストレスホルモン(アドレナリンやコルチゾールなど)が分泌されます。これにより全身にストレス反応が起きます。

具体的には、心拍数が上がる、血管が収縮し血圧が上昇する、瞳孔が広がる、呼吸が速くなる、骨格筋の血流が増大するなど。つまり交感神経が優位になって、体の運動能力が最大限に上がっている状態です。これは脳の「外敵に備えよ」という指令に対し、体が「闘争するか、逃走するか」の準備をしているからです。

ストレスを受けている間じゅうこのような反応が続くのですから心身共に疲れるのは当然ですよね。やっかいなことにヒトには記憶があるので、嫌な場面を思い出したり、嫌なことを想起させる場面を見る、関連する言葉を聞く、といったことだけでもストレス反応が起こってしまいます。

ストレスが原因で起こる心と体の不調

ストレス反応は心理面、身体面、行動面に現れます。

身体的反応

動悸、高血圧、狭心症、発熱、頭痛、腹痛、疲労感、首・肩こり、腰痛、食欲の減退、嘔吐、下痢、便秘、過敏性腸症候群、のぼせ、めまい、しびれ、睡眠障害(不眠・浅眠・夜間覚醒)、免疫の異常(アレルギー)など

心理的反応

不安、イライラ、恐怖、パニック発作、落ち込み、緊張、怒り、罪悪感、感情鈍麻、孤独感、疎外感、無気力、抑うつ、集中困難、思考力低下、短期記憶喪失、判断・決断力低下など。

行動的反応

怒りの爆発、攻撃・暴力的傾向、突然泣く、引きこもり、孤立、拒食、過食、幼児返り、チック、吃音依存(アルコール、ギャンブル、買物)、業務ミス・遅刻・欠勤の増加など。

ご覧いただいたようにストレスによる不調は、消化器、循環器、呼吸器、運動器、自律神経、精神と多岐にわたります。これが『ストレスは万病のもと』となる所以です。

上に挙げた状態が一時的なものであれば正常なストレス反応として問題はないのですが、長期間、継続的にみられるのであれば過剰なストレス状態に陥っているサインかもしれません。
もしいま現在、原因不明の不調に悩まされているなら、ストレスを疑ってみてください。そしてストレッサーが何なのかを探ってください。ストレスからくる体調不良を改善するには、個々の症状に対応するよりストレッサーの排除が一番の早道ですから。

関連記事