痛みを知る

現代人を悩ませる『首こり』を招く5つの原因

首こりは危険なこりです

パソコンやスマホ、タブレットが普及する前は「首こり」という言葉をあまり聞かなかったと思いませんか?これまで「こり」と言えば「肩こり」が代表的で、CMやドラマに登場する疲れた人は必ずため息をついて肩をポンポンと叩いていました。
最近では「首こり」を話題にした雑誌やネットの記事も多く見かけられ、様々な「首こり」解消グッズも登場しています。

首こりも肩こりも、筋肉が過度な緊張状態にあることで血流が悪化し、筋肉が酸欠になって起こる症状です。「こり」は一時的なものであれば、運動や入浴、マッサージなどで簡単に解消できます。しかし、こっている状態が長引けば、硬さとコリの範囲が増し、そのうちするどい痛みを発するようになります。そして痛みは交感神経を興奮させます。

特に首は脳に血液を大きな血管の通り道であり、自律神経が密集した場所であるため、首こりが悪化すると、痛みとともに、頭痛、めまい、睡眠障害、呼吸困難、胃腸障害といった自律神経の症状を併発します。さらに頭部器官(目、耳、鼻、口)の機能低下も招きます。

このように首こりは肩こりと同じ「こり」でも心身に与える影響の大きさが全く違うのです。そんな危険な首こりはなぜ起こるのか?その要因を紹介します。

首こりを起こす5つの要因

  1. 悪い姿勢
  2. 腕の疲労
  3. 目の疲労
  4. 食いしばり
  5. ストレス・不安
1.悪い姿勢

悪い姿勢とは猫背を始め、パソコンやスマホの操作時に背中が丸くなって首が前に突き出る(一時的な猫背)のことです。
首は頭部と体幹をいくつもの筋肉が様々な階層でつながり、つなげています。

頭部の重さは体重の約8~10%。体重が50kgの人なら約5kgあります。この重い頭は、7つの頚椎、12の胸椎、5つの腰椎、5つの仙椎、尾椎の計30個の骨の重なりが自然なS字カーブを描くことで支えられています。

もしもこの重い頭部が正しい位置(ニュートラルポジション)から離れ2.5cm前に出ると、首にかかる負担は4kg増すと言われています。オフィスでパソコン操作に熱中にすると首はどんどんモニターに近づき、おそらく6~9㎝くらいは前にでているのではないでしょうか。そうなると首にかかる負担はなんと約12㎏!これは普通サイズのウォーターサーバーに取り付けられているボトルと同じ重さです。これほどの重さが首にかかれば「首こり」になるはずですよね。

2.腕の疲労

腕の疲労による首こりは、パソコンやスマホの操作、労働で腕を酷使する事によって起こります。

意外かも知れませんが、腕と首はつながっています。それは腕の運動(上げたり下げたり、前後左右に動かしたり、回したり)のすべてに関わる肩甲骨が鎖骨と関節(くっついている)しており、鎖骨は筋肉によって首とつながっているからです。

肩甲骨に作用する筋肉は、僧帽筋や大胸筋を始め、身体の前後にある胸から上の筋肉すべてなので、腕の疲労は肩から首へと影響を及ぼします。当院にいらっしゃる男性の患者さまで重いウェイトの筋トレや懸垂のやりすぎで首こりを起こしている人が結構います。女性では重い頭を抱えてシャンプーをする美容師さん、乳幼児のお世話をしている保育士さんに腕の疲労からの首こりが多く見られます。

自分のこりが肩こりなのか首こりなのかわからないという人が多いですが、肩こりのある人は必ず首こりもあります。なのでこれからは「首肩こり」といった方が良いかも知れません。

3.目の疲労

目の使いすぎ、合わない眼鏡やコンタクトの使用によっても首こりは起こります。

目の疲労による首こりが現れるのは、背面で頭部と首をつないでいる最深部の筋肉「後頭下筋群」です。後頭下筋群は、頭部の後屈,側屈,回旋の動きに関わっています。と同時に目を動かす眼球運動をサポートしています。特に近くにある対象物を見る時に、瞼を保持し、目のピント調節をする力学的支持点を担っています。例えるなら、ビデオカメラや携帯で動画を撮影する際の「手振れ補正」をしているのが後頭下筋群なのです。

パソコンやスマホの普及によって、私たちは近くのモノを見る機会が格段に増えました。それも長時間に渡り、画面の変化が早い動画をより多く見ています。このことが目の疲労による首こりの人を増やしています。

4.食いしばり

鍼灸師として働きはじめてから食いしばりに悩んでいる人が多いことに驚きました。

食いしばりをする原因は「前歯を使わない噛み方や片方だけの噛み方」「不正咬合(かみ合わせの悪さ)」「合わない歯科金属」「ストレスや不安」などが挙げられています。歯を食いしばると、顎から首、肩、頭部と想像以上に広範囲の筋肉が緊張します。そのせいで食いしばり癖のある人の多くに首こりがあります。

食いしばりは寝ている間だけにみられる癖ではなく、仕事をしている日中にも見られます。日中は意識すれば食いしばりを防ぐことはできますが、眠っている間は理性が働かないのでの食いしばりを止めることは難しいです。睡眠中の食いしばりで顎にかかる力は、食事をしているときの約3倍、100㎏近い力があると言われています。堅焼きせんべいを食べる比ではありません。

食いしばりが強くなると顎関節症の症状が出ることもあるので要注意です。顎関節は頭蓋骨と関節をなしているので、顎関節のゆがみが噛んだ時の力を頭蓋骨に伝え、頭蓋骨までゆがませてしまう可能性があるとのこと。顔が非対称だ、という方は食いしばりや顎関節症を疑っても良いかも知れません。

5.ストレス・不安

うつ病やパニック障害を抱える人の代表的な身体症状は「首こり」と「背中のこり」です。

これは不安や心配を抱える人は姿勢が悪くなりやすい、ということと、呼吸が浅く速くなっていることに起因しています。姿勢が悪くなり背中が丸まってしまうと、首が自然に前に突き出し①で紹介した猫背と同じ状態になります。猫背は重い頭部が落ちないように、首と背中の筋肉ががんばって引っ張り上げている為、首と背中の両方がこってしまいます。

また猫背は、肺の入れ物である肋骨の動きが制限されてしまうため、、深い呼吸がしずらくなり、胸だけを使った、浅く速い呼吸になりがちです。すると呼吸補助筋である首の前側の筋肉の活動に働くため首の疲労、特に首の前側の負担が多くなります。

原因不明の体調不良は首こりのせい?

現在首こりが原因と言われている疾患には次のようなものがあります。

緊張型頭痛、めまい、自律神経失調症、うつ、パニック障害、不安症、更年期障害(難治)、慢性疲労症候群、ドライアイ、多汗症、不眠症、機能性胃腸症、過敏性腸症候群、機能性食道嚥下障害、血圧不安定症、ドライマウス、便秘症など。

個人的には、ここに挙げたものだけでなく“不定愁訴”と言われる原因不明の体調不良には、首こりが深く関わっていると思っています。
実際当院にいらした線維筋痛症と病院で診断された患者様は、数回の首こり治療で症状が改善しました。

首こりは様々な不調を招く危険なこりです。

まずは首こりにならない生活習慣を心掛けていただき、首こりを感じていらっしゃれば、早めの治療をお勧めします。

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