首こりと顎関節症
顎関節は口を開閉させて「話す」「食べる」という、ヒトが生きていくうえで欠かせない大切な役割を担っています。その為に1日の中で関節を動かす頻度が高く、負担のかかりやすい関節である為、顎関節痛は多くの方が経験します。
かつては顎関節痛は「かみ合わせの悪さ」が最大の原因だと考えられていました。しかし今では顎関節痛を招くのは、関節や筋肉に負担をかける様々な要因が積み重なった結果であることが解ってきました。これを『多因子病因説』といいます。
痛みを招く要因には以下のものがあります。
構造的要因:先天的な顎関節やあごの筋肉の弱さ、骨格の変形、不良なかみ合わせ
外傷要因:打撲、転倒、交通外傷
行動要因:頬杖、うつぶせ寝、片側での噛みクセ、下顎を前方に突き出す癖、爪かみ、はぎしり、重量物の運搬、スポーツ全般
精神的要因:緊張が持続する仕事、人間関係での緊張、心配・不安・恐怖の持続
このような様々な要因がいくつも重なって負担が大きくなり、その人の持っている耐久力を超えると症状が出ます。これは顎関節痛に限らず、腰痛、膝痛、首痛など体の痛み全般にあてはまるものです。
以下に顎関節痛を起こす代表的なものを3つ挙げます。
顎関節痛の原因1.食いしばり
普通、口を閉じているときは上下の歯は接触しておらず空間があります。上下の歯が接触するのは食事の時くらいで、時間にすると1日20分程度だと言われています。ですが、ストレスなどで常に歯を接触させて食いしばっている人は関節への負担が大きく顎関節痛が起こりやすいです。
歯を食いしばってしまう原因としては、猫背、いつも下を向いている姿勢、前歯を使わない噛みグセ、片側だけで噛む、歯並びの悪さ、精神的緊張、不安、心配、人間関係のストレスなどです。特に「歯を食いしばって耐える」「悔しくて歯噛みする」といったように、精神的なストレスと食いしばりとの関係は深いものがあります。
最近ではコロナ禍でのマスク生活が無意識のうちにストレスをためていて、無意識のうちに食いしばりグセがついてしまった人も多くいるようです。このように仕事中や趣味など、何かに集中している時は食いしばっている可能性が高いので注意が必要です。
顎関節痛の原因2.片側噛み、頬杖、うつぶせ寝
口の開閉には上顎骨、下顎骨、顎関節、咀嚼筋が関与します。上顎骨は頭蓋に固定されていて、下顎骨が顎関節を介して上下やわずかに前後左右に動くことで口の動きを調整しています。
顎関節の最大の特徴は関節円板です。関節円板は、下顎骨頭にぶらさがっていて、顎が動くときに、上下の骨同士がこすれないようクッションの役割をしています。このクッションはやわらかい組織(外側翼突筋の筋膜から形成されていると言われています)なので、圧縮ストレス(押して縮める力)がかかると潰れたり、ずれたりして痛みや開閉時の音が鳴る原因となります。
日常生活の中で無意識に行っている以下のようなクセは圧縮ストレスです。
片側だけで噛む、頬杖、うつぶせ寝、食いしばり、歯ぎしり、ペンを噛む、爪を噛む、硬いものを好んで食べるなど。特に原因1でも取り上げた無意識の「食いしばり」は、継続的に関節に強いストレスがかかるので注意が必要です。
顎関節痛の原因3.舌の筋力低下
これは一般的にあまり認知がされていない事ですが、顎関節の痛みを始めとする顎関節症の原因のひとつに舌の筋力低下があります。なぜ舌の筋力低下が顎関節症の原因となるのかと言うと、それは上あご(上顎骨)を舌で支えることが出来ず、奥歯の接触を招くからです。無意識に上下の歯を接触させる「歯列接触癖(しれつせっしょくへき)」は、食いしばりにつながりやすく、顎関節への負担が増大します。
突然ですが、口を閉じている時、あなたの舌はどの位置にありますか?
通常は、舌の前方1/3くらいで上あごを押し上げるように、前歯の裏の歯ぐきのあたりにくっついています。舌が下方に垂れて、舌の付け根が下顎にくっついている人は「低舌位(ていぜつい)」という状態で、舌の筋力が低下しています。舌の筋力の低下は、歯列接触癖だけでなく、不正咬合、嚥下(えんげ・のみこみ)障害、発話障害にもつながります。ご自身の舌が正しい位置にないと思った方は、舌の筋肉トレーニングを行いましょう。
顎関節の痛みを増悪させる要因には、飲酒、過食、不規則な生活習慣、ストレス、睡眠不足、運動不足、首こり、肩こりなどがあります。