筋筋膜性疼痛症候群(MPS)とは

筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)は、筋肉の激しい痛みを始め、しびれ、関節の可動域制限、筋力低下、自律神経機能障害を併発する疾患です。「筋痛症」と呼ばれることもあります。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の“筋膜にある痛みのセンサーが過敏化しトリガーポイントという発痛点を形成する”という概念は、1980年代にアメリカの医師によって発表された比較的新しいものです。それまでは「痛み」というのは原因となる疾患に伴う症状であって、原因が見つからなければその痛みは気のせいか大したことではない、と考えられていました。

トリガーポイントは通常病院で行われる血液検査、レントゲン、MRIなどでは目に見える根拠がでない為、医学界では長らく筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の存在自体が認められていませんでした。現在ではトリガーポイントの研究も進み欧米では一般的なものになっていますが、日本ではいまだに筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は医師はもとより一般の人にも十分に認知されていません。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の原因

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は別名「筋痛症」と言われるように、いわゆる『筋肉痛』です。

通常私たちが経験する「筋肉痛」は、スポーツや登山、重い荷物の持ち運びといった筋肉を過度に使用した時に一時的に感じるものです。これは筋肉を酷使したことで組織が損傷し、その傷を治すために患部に炎症という治癒反応がおきていることによる痛み(急性痛)です。

これとは異なり、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は筋や筋膜、腱、靭帯といった軟部組織への過負荷が継続した時に発症する慢性痛です。つまり炎症を起こすほどのひどい組織損傷はないものの、微小な損傷が繰り返し起きている時の痛みです。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)を起こす原因は様々ですが、多くは『多動=運動による筋の酷使』『不動=関節運動を伴わない筋緊張の持続です。筋の使い方は違いますが、どちらも働きすぎで筋疲労を起こしている状態です。

多動の例:激しいスポーツ、反復する運動(音楽家・スポーツ選手・肉体労働など)、過度な筋トレなど。

不動の例:長時間の同じ姿勢、猫背を始めとする悪い姿勢、喰いしばり、ストレスや不安による体の硬直など。

これらに加えて、貧血、カルシウム・カリウム・鉄分、ビタミンC/B-1/B-6/B-12不足なども筋筋膜性疼痛症候群発症(MPS)の要因になっていると考えられています。

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の症状

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)は全身のどの筋肉にも起きる病気です。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の痛みは通常1,2か所に限局した筋肉痛で、特に首、肩、背中、腰、お尻といった脊柱に沿った起立筋群に多く生じます

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)では全身が同時に痛み、しびれが発生することは基本的にはありませんが、限局した筋肉痛からの関連痛として広い範囲に痛み、しびれを感じる時もあります。また痛み、しびれを感じる部位が、時間の経過と共に移動する事があるのも、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の特徴の一つです。

具体的な症状としては以下のようなものがあります。

  • 局所痛:自発痛ともいいます。じっと安静にしていても痛みが出る状態。かなり重症度が高い。
  • 圧痛:筋がこっている、張っていると感じる部位を押された時に痛みが生じる。
  • 運動痛:ストレッチなど体を動かした時に痛みが生じる。
  • 関連痛:痛みとなる原因が生じた部位と異なる部位に感じる痛み。原因は解明されていませんが、筋膜の連鎖が関連していると考えられています。
  • 索上硬結(さくじょうこうけつ):ひも状、ロープ状のゴリゴリしたしこり。
  • 関節の可動域制限:関節が曲がりにくくなる。
  • 筋力の低下
  • しびれ
  • ストレッチ陽性サイン:他動的に筋を伸ばされると痛みが出る。
  • 自律神経の障害:胃腸障害、呼吸障害、睡眠障害、気分障害(パニック障害、うつ)など
  • 固有感覚の障害:めまい、フワフワ感など。固有感覚は体の位置関係や筋や腱にどれくらい力が入っているのかを感知します。
  • 浮腫(むくみ)
  • 蜂巣炎:皮下組織におこる感染症
  • 脱毛

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)によく似た病気

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の『筋肉由来の痛み』という概念は比較的新しいものです。それまでは運動器の痛みは画像検査で確認できるヘルニアや骨の変形といった構造の異常が原因と考えられており(構造異常モデルといいます)、現在でも日本の医師教育ではこの「構造異常モデル」をもとに学生の指導・育成が行われているそうです。その為、医師でも筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の存在を知らない人がいて、以下のような病気と間違えて診断される場合があります。

【筋筋膜性疼痛症候群(MPS)によく似た病気】※他の疾患と合併していることもあります。

  • 筋緊張性頭痛
  • 偏頭痛
  • 顎関節症
  • 舌痛症
  • 頚椎症
  • 頸肩腕症候群
  • 胸郭出口症候群
  • 五十肩
  • 肩関節周囲炎
  • テニス肘
  • ゴルフ肘
  • 手根管症候群
  • 腱鞘炎
  • 椎間板症
  • 椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症
  • 腰椎すべり症
  • 変形性股関節症
  • 変形性膝関節症
  • 半月板障害
  • 糖尿病性神経障害 他

自律神経機能の障害を併発した場合は以下のような病名がつくこともあります。

  • めまい(非回転性)
  • 睡眠障害
  • 気分障害
  • パニック障害
  • 動悸感
  • 心臓神経症
  • しびれ感
  • 耳鳴り
  • 機能性胃腸症
  • 胃けいれん
  • 生理痛
  • 排尿時痛
  • 排便時痛・肛門痛 他

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の治療法

筋筋膜性疼痛症候群の治療において最も重要なのは激しい痛みを発しているトリガーポイントを取りのぞくことです。またトリガーポイントが発生する原因はコリの慢性化と循環障害なので、それらを改善することも併せて必要になります。

臨床の現場では以下に紹介する物理療法、トリガーポイント療法、運動療法、認知行動療法が治療の中心となっていて、薬物療法は限定的に使用されています。

今のところ筋筋膜性疼痛症候群(MPS)に有効な内服薬はありません(個人的には内服薬で筋肉の損傷が治ることはないと考えています)。また慢性痛患者へ安易に鎮痛薬や抗うつ薬などの向精神病薬を使用することは世界的に注意喚起されています

物理療法

  • 温パック:リラックス効果と血液循環の促進
  • 超音波、低周波:温熱や振動による血管の拡張
  • マッサージ:リラックス効果と血液循環の促進
  • Faciaリリース:徒手(手技)や器具を用い、Faciaの異常を解消

※Facia=筋膜ではなく、筋膜に加え腱、靱帯、神経線維を構成する結合組織のことを指します。

トリガーポイント療法

  • トリガーポイント注射:トリガーポイントに局所麻酔薬や生理食塩水を注射することで、索状硬結を取りのぞき、血行を促進する。
  • トリガーポイント針刺入法:トリガーポイントを針で刺激し、索状硬結を取りのぞき血行を促進する。
  • 東洋医学のある種の鍼治療(経絡理論を用いない鍼治療)、西洋医学では「ドライニードリンク(dry needling)」筋肉内刺激法(intramuscular stimulation:IMS)などがあります。

※当院の「深層筋トリガーポイント鍼療法」はトリガーポイント針刺入法の一つですが完全なオリジナルの技術です。

運動療法

  • ストレッチ:筋や関節を伸ばすことによる筋の柔軟性、関節の可動域の回復、血液循環の促進。
  • 筋力強化運動:適度な運動とスポーツによる運動機能の回復
  • 固有受容トレーニング:筋と脳との促通力の強化。特に平衡、姿勢、関節の調節を強化する為にトランポリンや平行棒、バランスボールなどが有効。

認知行動療法

痛みについての誤った認識を修正する「認知療法」と、痛みと行動の関係を知って日常生活でできることを増やしていく「行動療法」を組み合わせた治療法。