ネプチューン名倉潤さんの「頸椎椎間板ヘルニア手術のストレスでうつ病発症」報道に思う事。

去る2019年8月1日、人気お笑いトリオ「ネプチューン」の名倉潤さんがうつ病を発症し2か月間の休養を宣言されました。

報道によると、名倉さんは2018年6月に頚椎椎間板ヘルニアの手術を受け、術後に継続的な内服の必要があるため、同年7月10日から10日間の休養。手術の経過は良好な一方、手術の侵襲によるストレスが要因でうつ病を発症し一定期間の休養が必要という医師の診断が下された。とあります。

私はこの報道にふれた時からずっと心がザワザワしています。それは名倉さんが不必要な頚椎椎間板ヘルニアの手術をしてしまったから。そしてうつ病の発症が手術の侵襲によるストレスと説明されているからです。

頚椎椎間板ヘルニアの診断と手術は正しかったのか?

首痛の施術を得意としている私のもとには病院で頚椎椎間板ヘルニアと診断された方、頚椎椎間板ヘルニアと診断され手術しかないと言われた方、頚椎椎間板ヘルニアの手術をして後遺症に苦しんでいる方が数多くいらっしゃいます。このような方々の首痛のほとんどはヘルニアが原因なのではなく、筋筋膜性疼痛症候群という筋肉や筋膜、腱といった軟部組織の異常による痛みです。

首の痛みや手・腕のしびれに悩む人は、まず整形外科に行ってレントゲンやMRIを取られたことと思います。そして“ヘルニアがある”“脊柱管が狭くなっている”“頚椎が変形している”、そのせいで痛みやしびれが起こっているのだと説明されたことでしょう。画像には飛び出たヘルニアや狭くなった脊柱管が神経を圧迫しているのが映し出されていて、その説明はとても説得力があります。しかしこのような日本の整形外科で通常行われているレントゲンやMRIなどの画像検査の結果から導き出される診断、そしてその診断をもとにした治療は「構造的アプローチ」といい、欧米から20年以上も遅れている痛みの治療法だというのをご存知でしょうか?「構造的アプローチ」というのは、ヘルニアを始めとする椎間板の変性、軟骨のすり減り、脊柱管の狭窄と言った骨の構造的な変化が脊髄や神経を圧迫し、痛みやしびれを起こしているという前提で診断することです。これに対し欧米では20世紀の初頭から様々な研究と調査が行われており「ヘルニアがあっても痛みのない人がいる」「手術で神経の圧迫をとっても痛みが消えない人がいる」といった結果から、構造の異常と痛みは必ずしも関係しないという結論が出されました。そして痛みには、運動機能(人の身体を動かすために働いている組織のこと。脳、脊髄、末梢神経、筋肉、関節、骨、軟骨、椎間板など)、生理機能(内臓、免疫)、心理機能が大きく関係しているとされ、総合的に痛みの原因を探る「機能的アプローチ」での診断が行われるようになっています。痛みやしびれがある時の画像診断(レントゲン、MRI)は、本来骨折や悪性腫瘍、感染症といった重大な脊椎病変の可能性があるかどうかの診断の為になされるものです。欧米ではその可能性がない患者に対する画像検査は、放射線による被ばくリスクや画像検査で得られた結果と痛みとの関連性が低いこと、患者心理に悪影響を及ぼす可能性がある為やるべきではないと推奨しています。

名倉さんの休養報道がされた時は、聞きなれない『手術の侵襲』という言葉や『手術の侵襲がうつの要因になる』ということが注目され、ネットニュースやワイドショーを賑わしていましたが、私はそもそも名倉さんの首の痛みの原因がヘルニアと診断されたこと、そしてヘルニアの手術をしてしまったことがうつ病発症にまでいたった理由ではないのかと考えています。

ヘルニアと痛みは無関係

「ヘルニアという骨の構造異常と痛みは無関係である」。これは私が言っているのではなく、全国から慢性痛に苦しむ人たちの駆け込み寺となっている加茂整形外科医院の院長加茂淳先生の言葉です。私がとても尊敬している先生です。加茂先生は前述した「構造的アプローチ」による誤診で苦しんでいる人を救う為、書籍やサイトで様々な情報を提供されています。先生が説明されている骨の構造異常と痛みが無関係だとする理由は、首痛の治療をしている者としてとても納得がいきます。

詳しくはこちらのサイト、記事をご覧ください

http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/

https://diamond.jp/articles/-/203176

私は加茂先生ほどの臨床経験はありませんが、これまでに延べ3000人以上の首痛の方の施術を行ってきました。その経験からしても「ヘルニアと首痛は無関係」と確信をもって言えます。その理由は、ヘルニアで手術しか方法はないと言われた方が数回の鍼治療で痛みが完全に消失することと、以下のような疑問があるからです。

1.神経根が痛みを伝えることがあるのか?

生理学の本には、痛みというのは痛覚神経の自由神経終末(神経線維の末端)にある痛覚受容器(侵害受容器)が刺激され興奮したときに生じるとあります。神経は末端の器官に加わった刺激を電気信号に変え脳に伝え、脳で起こった興奮を末端の器官に伝えるいわば電線のような器官です。感覚神経、運動神経、自律神経は束になって脊髄の中を通り脳と各器官をつないでいます。ヘルニアで神経が圧迫されるという神経根はその神経の束のことで、電気コードでいうところのコードにあたる部分です。そして自由神経終末はコンセントプラグです。コードに強いねじれが生じたり、折れたりすることで電気コード自体が使えなくなる(感覚麻痺、運動麻痺がおこる)ことはあってもコードの途中が痛みという痛覚神経の興奮を生じさせることはないはずなのですが・・・。

痛覚神経の生理的興奮は、その末梢の自由終末にある痛覚受容器(侵害受容器)が刺激されたときにみられる。自由終末と脊髄を継ぐ部分からインパルスが発生することはめったにない。痛覚受容器を介さず神経繊維からインパルスが発生することを異所性興奮という。異所性興奮を生じる可能性が高いのは、脱髄部および障害された末梢神経の側芽と神経腫である。脊髄後根を圧迫すると神経根痛(radicular pain)がでて、圧迫された後根の支配領域に痛みが走るとみられている。しかしこの考えは特別な場合にしか通用しない。たとえば、脱髄線維を含む脊髄 後根への機械刺激を誘発するが、正常な脊髄神経根の圧迫は痛みを生じない。実験動物の正常な脊髄後根を圧迫しても、痛みを伝える侵害受容線維を含めた求心性線維の持続的発射活動は誘発されない。「臨床医のための痛みのメカニズム」横田敏勝 著

神経線維は通常、その末端にある受容器から信号を伝えるものであって、その途中が興奮を起こしたりするようなことはありません。「痛みを知る」熊澤孝朗 著

2.ヘルニアが原因なら四六時中痛まないのはなぜか?

ヘルニアとは体内の臓器や組織が本来あるべき部位から「脱出・突出」した状態を指します。例:臍(へそ)ヘルニア〈でべそ〉、鼠径(そけい)ヘルニア〈脱腸)など。もし脊髄から突出したヘルニアが神経を圧迫しているのであれば、いついかなる時も激しい痛みに襲われるはずです。しかし患者さんの話を聞いていると、ゆっくりお風呂につかった後、休みの日に休養している時、マッサージを受けた後などには痛みが軽減しています。ヘルニアがあるにもかかわらず、痛みが軽減したり無症状になる時期があるのはなぜなのでしょうか?実際当院にいらっしゃる患者さんで“私ヘルニア持ちなんです”と言われる方は多いです。しかしその方達が訴えられるのは痛みではなくコリです。筋肉のコリがひどくなると痛みを発すると考えた方が自然ではないのでしょうか?ヘルニアがあっても痛くない人がおり、ヘルニアがなくても痛い人は大勢いるのです。

3.保存療法を行う期間が長い。そのわりに経過観察をしない。

ヘルニアの治療は保存的療法(頚椎牽引療法、頚部カラー固定、頚部のマッサージ、リハビリなどの理学的療法)と手術療法の2択です。ヘルニアという突出物が激しい痛みの原因であるとするなら、現代では侵襲の少ない手術法がいくつもあるので手術一択でいいのではないかとも思いますが、頚椎椎間板ヘルニアと診断された方の多くが長期間の保存的療法を行われています。長い人は2年、3年と整形外科での治療を続けてきておられ、ご自身の自覚では徐々に悪化してきたと言われます。ヘルニアには時間がたてば自然消滅するものもあります。もし保存療法によってヘルニアの自然消滅を促進するのが目的であれば、時々でヘルニアの消滅度合いなどを観察するものだと思うのですが、長い治療機関の間にそのような検査はあまり行われていないようです(逆に頻繁に検査ばかりを行う病院もあるそうです)。ヘルニアが原因と診断し、長期間の通院を強いながら経過観察をしないのはなぜなのかとても疑問です。

この他にもヘルニアと痛みに関する疑問は数々あります。

  • ヘルニアが圧迫している神経支配領域と痛みの場所がちがう
  • 手術をしても痛みが消えない人がいる。
  • 手術を繰り返している人がいる。
  • 神経根ブロックや硬膜外ブロックが効かない人がいる。etc

そもそもヘルニアが出来る原因は、筋肉が硬くなるか、筋力が弱化していることで強い圧力が骨にかかるからです。ヘルニアは痛みやしびれの原因ではなく、筋肉の障害が招いた結果とみるべきです。骨格を支え動かすのは筋肉です。体に痛みが出た時は骨ではなく、筋肉の障害を疑うのが先ではないのでしょうか?

手術の侵襲か痛みの再発か

報道では名倉さんがうつ病を発症したのはヘルニアの手術による『侵襲』が原因だとされています。『侵襲』とは医学用語で、生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激全般(投薬・注射・手術などの医療行為、外傷・骨折・感染症など)を言います。

看護師が行っている「フィジカルアセスメント(全身の状態を系統的に査定すること)」によると、手術の侵襲による整体変化には以下のようなものがあると説明されています。

  • ホルモン分泌を中心とした神経内分泌反応と,サイトカインを中心とした免疫反応が生じる。
  • 侵襲により,主に「呼吸」,「循環」,「代謝」,「凝固能」,「免疫能」が変化する。
  • 術後臓器不全の予防には,感染などの合併症(second attack)予防が重要。

聞きなれない言葉がいくつか出てきますが、手術の侵襲による生体反応とは、手術という体にとっての大きなストレスにより乱れた生体の恒常性を元に戻そうとする一時的な反応のことです。現在頚椎椎間板ヘルニアの手術は、傷口が小さくすむ内視鏡手術や顕微鏡手術、髄核の一部をレーザーで蒸散させてヘルニアを解消させる手術などが主流になっています。名倉さんのような有名人は当然傷口がほとんど残らないような手術を選択されているはずで、そのような手術がひどい侵襲になるとは考えられません。ましてや1年も前の手術が『侵襲』となりうつ病を発症させるでしょうか?専門家も名倉さんのケースを特別なものと見ています。

山野医療専門学校副校長で医学博士の中原英臣氏は、「『侵襲』とは、手術や薬の副作用など身体を傷つける全てのことを指す。重篤な患者の手術や、手術で回復しないなどには鬱病の発症があり得るが、一般的には手術による侵襲が鬱病の引き金になることはまずないと考えていい。名倉さんの場合、手術の経過は良好ということなので、相当まれなケースだろう」と解説する。Livedoorニュースより抜粋

冒頭にも書きましたが当院には長年首痛に苦しめられてきた方が多く来院されています。その方々が口々にいうのは「この首の痛みをずっと抱えて生きるかと思うとうつ病になりそうだった」というものです。首には自律神経のブレーキ役である副交感神経が密集しています。また首と頭の境目には、自律神経機能の中枢である脳幹が位置します。首のコリは脳へと向かう血管と神経を絞扼(こうやく)し、脳の働きに不可欠な酸素の供給と自律神経の正常な機能を阻害します。胃腸障害、睡眠障害、気分障害、パニック障害などなど。これらの症状は悪化すると症状自体が大きなストレスとなる為、時にうつ病の発症につながり日常生活に甚大な影響を及ぼします。それほど首の痛みと精神状態は密接な関係があるのです。名倉さんのうつ病は本当に1年も前に受けた手術による侵襲なのでしょうか?

症状が改善しないと心の問題にされることも

首の痛みに長年苦しめられ病院通いをしている方達は少ながらず向精神薬を処方されています。痛みの治療に向精神薬が使用されている理由は1.鎮痛薬として 2.抗不安薬として 3.睡眠薬としての3つが多いようです。

患者さんのお話を伺っていると、最初は牽引や電気治療、リハビリ、マッサージといった保存的療法と合わせてリリカ、サインバルタといった鎮痛薬が処方されますが、症状に変化がないと次第に抗不安薬のリーゼ、ワイパックスなどが出されるようになり、睡眠障害があるとそこにデパス、レンドルミンなどが加わります。

画像検査でヘルニアがあると診断された人は保存的療法と投薬で効果が出なければ手術を勧められます。運よく手術で痛みが軽減すれば良いのですが(手術をして良くなったという人は全身麻酔の作用で筋のスパズムが取れたと考えられます)、そうでなければ「ヘルニアを取ったのにまだ痛いのはおかしい。痛いのは気のせいだ」などとひどいことを言われることもあります。ヘルニアがなければないで、年だからうまく付き合っていきましょう、ストレスです、気にしすぎと済まされてしまいます。いずれにせよ病院では痛みが軽減しない限り投薬は続けられます。こうして患者さんは痛みから逃れたいばかりに薬の量と種類が増し、最初は首の痛みだったのが、薬のせいで頭重、胃腸障害、倦怠感といった自律神経の症状も加わり、病状は悪化の一途をたどります。

痛みというのは神経の末梢で起きる電気的興奮です。強い痛みが長く続くと「長期増強」という現象が起こり、脳に痛みと不快な情動が合わさって記憶されていきます。この状態が続くと中枢神経系に深刻な影響を及ぼし『痛いところはより痛く、痛くないところも痛い』という慢性疼痛の様相を呈します。そうならない為に『早期除痛』はとても大切なのですが、病院では骨の構造を正すことに主眼が置かれるため、除痛が優先的に行われません。神経根ブロックや硬膜外ブロックが効かないということもあるでしょうが・・・。

痛みの目的は<組織の損傷を知らせる警告信号>と<傷を浅くし安静を即すための不快な情動を与える>ことです。そもそも“痛みの原因は何か”という診断を間違えると、間違った治療法を受けている間に痛みはどんどん増強されていきます。そして整形外科を受診したのにいつの間にか心療内科に通院している、といった笑えない状態になる可能性もあるのです。

まとめ

このブログに書いた名倉さんの報道に関するいくつかの疑問はまったく私の想像の域を出ませんが、以下のような経緯があったのではないかと考えています。

名倉さんは何らかの理由で首、肩、腕、手のいずれかに激しい痛みやしびれがあった→整形外科を受診し画像検査→頚椎(首の骨)のどこかにヘルニアが発見される→医師が痛みやしびれの原因はヘルニアが神経を圧迫していることが原因だと診断→一定期間保存的療法(注射、薬物療法、牽引、電気治療、超音波治療など)を行ってみたものの症状が改善せず手術に踏み切ることに→手術によりヘルニアを摘出、あるいは骨を削り神経の圧迫を取りのぞくことに成功(=手術の経過良好)→手術後ほどなくして痛みやしびれが再発→ヘルニアを除去すれば症状が軽減するはずではなかったのかという「疑問」、早く以前のような状態に戻さねばという「焦り」、またあの痛みやしびれが再発するのかという「不安」などで頭が一杯になる(実際に激しい痛みが生じている可能性あり)→体の痛みと様々な思考で精神の安定を保ちにくくなる→うつ病が発症

今回の名倉さんに起こった首痛→ヘルニアの手術→うつ病発症という流れは、首の痛みはヘルニアが原因だと診断されてたどる最悪のケースだと言えます(あくまで想像ですが)。最初にも書きましたが首の痛みのほとんどは筋筋膜性疼痛症候群という筋肉や筋膜、腱といった軟部組織の異常による痛みです。今現在頚椎椎間板ヘルニアと診断され、長く病院で治療を受けているにも関わらず症状に変化が無い方は、是非筋肉を始めとする軟部組織の治療(個人的にはトリガーポイント療法が最善だと考えています)を始めてください。

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