痛みの発信源『トリガーポイント』とは

長引く体の痛みに悩まされ色々な治療を受けてこられた方や、もっといい治療法はないかとネット検索をされてこられた方は「トリガーポイント」という言葉に一度は接したことがあるかと思います。「トリガーポイント」は《激しい痛みや関連痛をひきおこす箇所》とされており、近年この「トリガーポイント」をターゲットにした治療が、慢性痛やがんこなコリの改善に有効だと注目を集めています。日本では4人に1人がなんらかの慢性痛を持っていると言われているなか、慢性痛治療の新たなアプローチとなりそうな「トリガーポイント」。この「トリガーポイント」を詳しく知る為に、なぜ「トリガーポイント」ができるのか、「トリガーポイント」が起こす症状、「トリガーポイント」の治療法などをご紹介していきます。

トリガーポイントとは何か?

最新の定義によると「トリガーポイント」は「過敏化した侵害受容器」とされています。侵害受容器というのは、正常な組織が損傷した(骨折、ケガ、火傷など)、あるいは損傷する恐れのある刺激(ひっぱられる、つねられる、寒冷にさらされるなど=侵害刺激)が体に加わった時に、その刺激を電気信号に変える変換器のことです。侵害受容器によって電気信号に変換された刺激情報は、感覚神経によって脊髄, 視床を経て大脳皮質に伝達され、痛い!という感覚となります。侵害受容器は体のあらゆる場所に存在しています。その理由は、動物はケガをした時は安静にして早く傷が癒えるようにしなければならず、ケガをしそうな時はいち早くその刺激から逃れなければならないので、『痛み』という不快な感覚をいち早くキャッチする必要があるからです。「トリガーポイント」はこの受容器がなんらかの刺激で活発に活動している箇所、すなわちあなたの病気や病変の中心地なのです。

「トリガーポイント」は痛みを伝えるだけでなく、後述する様々な症状をひき起こします。「トリガーポイント」が引き起こす一連の症状を、筋・筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome,:MPS)と言います。日本ではまだ筋・筋膜性疼痛症候群という病気は医者、患者の双方にあまり知られておらず「筋痛症」と呼ばれたり、「線維筋痛症」と混同して語られることがあります。

トリガーポイントが発生しやすい部位は、筋肉が骨に付着する部分(=腱)、筋肉と筋肉が連結する部分、筋と腱の移行部、また力学的にストレスのかかりやすい場所(関節周辺など)です。トリガーポイントの多くは筋膜に存在しますが、筋膜以外にも靭帯・脂肪などの結合組織=Fascia(ファシア)にも存在します。※日本ではFascia(ファシア)=筋膜と翻訳され、筋膜リリースなどの施術法なども見られますが、Fasciaは筋膜以外の靭帯、腱、支帯、腱膜などの結合組織すべてを指す言葉です。

トリガーポイントの発生機序

トリガーポイントが形成される要因は大きく分けて2つ。『一過性の外力:大きな力が一時的に体にかかった時』『継続的な外力:同じ力が繰り返し体にかかった時』です。

一過性の外力の例:交通事故、スポーツ外傷、転倒、ムチウチ、寝違え、ぎっくり腰、打撲、捻挫、外科手術など。

継続的な外力の例:悪い姿勢、脚長差、骨格の非対称、長時間同じ姿勢でいつづける、長時間の反復する動作、かみ合わせ、喰いしばり、重い荷物を持つ、片側だけで荷物を持つ、過度な筋トレ、ストレスにより体が硬直するなど

このような一過性、継続的な外力が筋や結合組織にかかることによって組織が損傷し、筋の異常収縮を招くことでトリガーポイントが形成されます。

筋の損傷と筋筋膜トリガーポイント活性化のメカニズムを図式化したものはこちら↓

《「トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル」より。Ca2+=カルシウムイオン ACh=アセチルコリン(神経伝達物質) ATP=アデノシン三リン酸(エネルギーの元)》

「トリガーポイント」の発生には、筋にかかる外力の他にも様々な原因があるといわれていますが、いまだ正確にはわかっていません。現在「トリガーポイント」の発生に関連があるといわれている要因を以下の通りです。

  • 体内の水分量の低下
  • 栄養状態
  • 糖質の過剰摂取
  • 精神的ストレス

トリガーポイントによる症状

「トリガーポイント」が引き起こす症状で最も顕著なのは『痛み』です。これは前述したように「トリガーポイント」の発生に組織の損傷が関係しているからです。『痛み』にも局所疼痛や関連痛、圧痛など色々な痛みがありますが、これら以外にも以下のような症状がみられます。

  • 局所痛:自発痛ともいいます。じっと安静にしていても痛みが出る状態。かなり重症度が高い。
  • 圧痛:筋がこっている、張っていると感じる部位を押された時に痛みが生じる。
  • 運動痛:他動的、受動的に体を動かした時に痛みが生じる。
  • 関連痛:罹患筋の特徴的、特異なパターンによって、近隣あるいは遠隔部位に痛みが発生する。関連痛のメカニズムはまだ正確にわかっておらず現時点では「収束―投射説(脊髄の痛覚伝道路である二次ニューロンに内臓からの痛覚一次ニューロンと、皮膚からの痛覚一次ニューロンが収束している為脳が区別できず間違える)」が有力ですが、筋膜の連鎖も関連していると考えられています。
  • 索上硬結:ひも状、ロープ状のしこり
  • 関節の可動域制限
  • 筋力の低下
  • ストレッチ陽性サイン:他動的に筋を伸展させることで疼痛が誘発される。
  • 自律神経の障害
  • 固有感覚の障害:固有感覚は、体の位置関係や筋や腱にどれくらい力が入っているのかを感知する。
  • 浮腫
  • 蜂巣炎:皮下組織におこる感染症
  • 脱毛

トリガーポイントの分類

トリガーポイントは筋肉内に索上硬結(異常収縮した筋肉内にできるロープ状あるいはひも状のコリコリとしたしこり)として触知できます。その大きさは米粒大のちいさなものから親指ほどの大きなものまで様々です。トリーがポイントは形成される順番、場所、症状の重症度により分類されています。

1.形成される順番による分類

キートリガーポイント:痛みの原因となるトリガーポイント。キートリガーポイントが形成されると同じ筋肉や関連する筋肉内に次に紹介するサテライトトリガーポイントが形成されることが多く見られます。

サテライトトリガーポイント:キートリガーポイントの中継点となるトリガーポイント。キートリガーポイントが原因で同じ筋内や、関連痛が現れる筋、協調して働く筋のトリガーポイントを活性化させてしまうことがあり、その部分をサテライトトリガーポイントと言います。サテライトトリガーポイントは、それ自体を治療しなくてもキートリガーポイントが取り除かれれば通常はなくなります。

2.好発する部位による分類

中心性トリガーポイント:機能障害に陥った終板(運動神経の末端が筋に接続する部分)にできるトリガーポイント。筋肉を収縮させる指令を出します。主に筋腹(筋線維の中央)にできるのが特徴的です。

付属トリガーポイント:筋肉と腱の移行部または筋の骨付着部に形成されるトリガーポイント。骨や関節の痛みとして認知されます。中心トリガーポイントの緊張が解消されないと発症します。

3.症状の重症度による分類

活動性トリガーポイント(重症):安静にしていても疼痛を発する、痛みに過敏になっているトリガーポイント。特徴として以下のものがあります。①強い圧痛がある②その筋に特徴的な関連痛が現れる③筋の柔軟性を損なう④筋力が低下する⑤圧迫あるいは鍼刺激によって局所単収縮反応(局所的脱分極による筋の収縮)がある。

潜在性トリガーポイント(軽傷):安静時の痛みはないが、圧迫や動作時に痛みが出るトリガーポイント。特徴として以下のものがあります。①圧迫により関連痛がある②筋の柔軟性を損なう③筋力が低下する④圧迫あるいは鍼刺激によって局所単収縮反応(局所的脱分極による筋の収縮)が起こることもある。

潜在性トリガーポイントはサイレントで安静時痛がない為放置されがちです。その為、将来的に活動性トリガーポイントになることがあります。

トリガーポイントの診断

自分の痛みが筋肉に出来たトリガーポイントから来ているのか否かを診断してくれる病院は多くはありません。ご自身でトリガーポイントを診断するための必須項目と確認項目があるのでご紹介します。

必須項目

  • 索上硬結:筋に触れることが出来る場合、コリコリ、ゴリゴリした索状硬結がある。
  • 索状硬結内の強烈な圧痛点:索状硬結を触察した時に強烈な痛みを感じる部位がある。
  • 疼痛再現:圧痛のある索状硬結を圧迫するといつも感じている痛みが再現される。
  • 可動域制限:可動域での最終停止位でみられる疼痛:運動可動域に制限が見られ、最終停止位(可動域一杯に動かした位置)で疼痛が生じる。

確認項目

  • 局所単収縮反応:索状硬結を指先で弾くと局所的脱分極による筋の収縮がおこる。肉眼での確認が可能。活動性トリガーポイントに反応が顕著にみられる。
  • 針刺激による局所単収縮反応:活動性トリガーポイントやその周辺に針を刺入することで局所的脱分極による筋の収縮がおこる。
  • 関連痛パターン:活動性トリガーポイントを圧迫した時にその筋に特徴的な関連痛パターンが現れる。
  • 自発性筋電図活動:活動性トリガーポイントに電極をゆっくり近づけると電気活動が測定できる。

日常診療では、これら全てを確認することは困難であるため、まず、索状硬結の存在と刺激による症状(痛み)の再現を確認することが重要であると考えられます

トリガーポイントをターゲットにした治療法

トリガーポイント(過敏化した侵害受容器)を正常化する為の治療には、①徒手療法、②トリガーポイント注射③トリガーポイント針刺入法があります。

①徒手療法

指、手のひら、肘でトリガーポイントに徐々に圧力を加えることにより、拘縮した筋節を弛緩させる方法。病院での理学療法士による施術、整体院、マッサージ店での施術があります。筋膜リリース、筋膜マッサージという名称で施術が行われていることがあります。

②トリガーポイント注射

トリガーポイントに対して毒性のない局所麻酔薬や生理食塩水を注射することで、索状硬結を取りのぞき、血行を促進する。局所麻酔薬としては、リドカイン(世界で最も広く使用される局所麻酔薬。抗不整脈薬としても使用されている)、プロカイン(麻薬であるコカイン代用薬で毒性はコカインよりも弱い)が推奨されている。生理食塩水は体液とほぼ等張の塩化ナトリウムの水溶液(食塩水)なので、麻酔薬よりも体への負担が少なく副作用もありません。通常は保険適用です。

③トリガーポイント針刺入法

トリガーポイントを針で刺激し、索状硬結を取りのぞき血行を促進する。東洋医学のある種の鍼治療(経絡理論を用いない鍼治療)、西洋医学では「ドライニードリンク(dry needling)」、筋肉内刺激法(intramuscular stimulation:IMS)などがある。

トリガーポイント注射とトリガーポイント針刺入法の違いは薬液を注入すか否かもありますが、それ以上に大きな違いは注射針か鍼治療の鍼を使用するかということです。鍼治療で使う鍼は注射針のように中が空洞になっていない為、細く、先端も丸くなっている為、痛みがなく組織損傷が少ないといえます。

まとめ

「トリガーポイント」とは「過敏化した侵害受容器」。すなわち私たちの体に迫る危険を察知するセンサーが反応している場所でした。そしてこの「トリガーポイント」が引き起こす様々な症状が筋・筋膜性疼痛症候群という、いまだ医者、患者の双方にあまり知られていない病気です。トリガーポイントが形成される要因は、一過性の外力=事故やケガなどの大きな力が一時的に体にかかった時か、継続的な外力=悪い姿勢や反復する動作などの同じ力が繰り返し体にかかった時。いずれも組織の損傷が筋の異常収縮を起こし、虚血やエネルギー危機を招いた結果「トリガーポイント」が発生します。これまで運動器(身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称)の痛みは、ヘルニアや脊柱管狭窄症といった骨や骨格の異常が原因とされ、構造を正す治療が長く行われてきましたが、治療すべきは骨ではなく筋肉や筋膜、結合組織であるというのは確かに新しいアプローチです。