首痛の原因:その1「姿勢性の首こり」

猫背・亀首・ゴリラ肩

首こりを起こす5つの要因。まず最初は『姿勢性の首こり』です。
「首こり」を起こす姿勢の代表的なものは2つあります。
一つは身体を横から見た時に「頭が正しい位置(ニュートラルポジション)にない姿勢」。もう一つは「頭(顔)を上下左右のどちらかに傾けた状態を長時間続けている姿勢」です。

頭が正しい位置(ニュートラルポジション)にない姿勢の代表はなんと言っても『猫背』です。猫背ではないのに頭だけ亀のようににゅっと前方に突き出ている人はたまにいますが、ほとんどの人は猫背です。猫背の人というのは、単に背中が丸まっているだけでなく骨盤も後傾しているので、体の重心が後方へ移動しがちになるのを、重い頭を前方に突き出す(亀首)ことでバランスを取っています。また、背中を丸めると肩関節が前方に移動するので、肩が体の内側に向かってロールするような形(巻き肩/ゴリラ肩)になってしまっています。なので猫背の人は、「猫背・亀首・ゴリラ肩」といった3つの特徴を持っていることになります。

この猫背・亀首・ゴリラ肩の姿勢は、頸椎(首の骨)から腰椎(腰の骨)までの自然に描いているS字が崩れ、ほとんどCの字のようになってしまう為、地面から突き上げる衝撃と上半身の重さを上手く分散させることが出来なくなって、C字の一番湾曲した部分=腰に大きな負担がかかります。また、前回のブログでもご紹介したように(「マッサージでは取れない頑固な首こりの5つ要因」)、頭部が正しい位置(ニュートラルポジション)から離れ、2.5cm前に出るごとに首の負担は4kg増すので、猫背の方は首と腰に相当な負担がかかっているはずです。さらに猫背の人は背中や腰が前側にまるまっているぶん前面の胸とお腹の筋肉が短縮傾向にあります。このことは胸郭や横隔膜の動きを制限し、深い呼吸がしずらくなったり胃腸障害の要因となります。

デスクワーカーはみな猫背

“私は猫背ではないから大丈夫!”と思っているあなた、ご自身の仕事中の姿勢を思い出してみてください。こんな姿勢で仕事をしていませんか?

仕事のしはじめはきちんとした姿勢で座っていても、作業に熱中したり、疲れてくると徐々に骨盤が後傾し猫背になって、首はモニターに向かって伸びているはずです。こんな姿勢のまま数時間もいたらどれほどの負担が首にかかっていることか・・・。このような人達に顕著なのは首の横、顎の下から鎖骨にかけてのコリと首の肩のつけ根のコリです。筋肉でいうと胸鎖乳突筋、斜角筋群、頚板状筋、頭板状筋あたりに大きな負担がかかっています。また猫背の姿勢はゴリラ肩(肩が内側に巻いてしまう) になっていて、肩甲骨が外側に開く為、肩甲骨と肩甲骨の間や肩甲骨の内側にもコリや痛みが現れます。最近巷のマッサージや整体院の看板に<肩甲骨はがし>なるものをチラホラ見かけますが、これはデスクワーク時の猫背が原因で、肩甲骨周辺がつらい人が多いのだろうなぁと想像しています。

「首こり」だけじゃないデスクワーク時の猫背の脅威

デスクワーク中の悪い姿勢は、頭の位置がズレているだけでなく顎が上がっているので、頭と首の境目(頭蓋骨と頸椎(首の骨)をつなぐ部分)にある筋肉=後頭下筋群に大きな負担がかかります。後頭下筋群は眼球運動に合わせて頭の位置を調整する筋肉で、この筋群の下には頭部を栄養する大動脈や頭部器官の働きを司る神経が通っています。その為後頭下筋群が疲労すると、目の奥の痛み、めまい、吐き気、頭痛といった、頭部器官と自律神経に様々な不調をもたらします。また顎が上がっていると口呼吸になりがちです。口呼吸は鼻呼吸に比べ酸素を多く取り込めないので、頭部への酸素供給が少なくなり思考力の低下が起こります。また腹圧も低下するので、腰椎(腰の骨)が不安定になりやすく腰痛の原因にもなってしまいます。さらに口呼吸では扁桃腺が常時空気に触れることになり、ウイルスや雑菌の侵入が容易になって免疫力の低下を招くため、風邪をひきやすく疲れがなかなか取れにくい体になります。このように普段何気なく行なっている姿勢には、首こりや肩こりなどの筋肉の障害だけでなく、様々な体の不調を招く脅威がひそんでいるのです。

「下を向くコリ」「横を向くコリ」

『姿勢性の首こり』は頭(顔)を上下左右のどちらかに向けた状態を長く続けることによって起こります。当院の患者さんの例で言うと以下のような姿勢から「首こり」を起こしていらっしゃいます。

  • 楽器の演奏(バイオリンのような首を傾ける姿勢、下方にある楽譜台の楽譜を見る、ピアノの指導で片側だけを向き続けた)
  • 職場のPCモニターが正面ではなく、左右どちらかにある。或いは2台使いで、どちらか一方をよく見ている。
  • 家のTVが座った位置の左右どちらかにあり、いつも首をひねって見ていた。
  • 足元を気にしての歩行(高齢者の方)。
  • 授乳、育児(授乳中のお母さん、乳児、幼児を担当している保育士さん)
  • 接客(お客さんとの接触がいつも片側からになっていた)
  • 上を向いての作業(植木の剪定、塗装業の方など)

上記にあるように『姿勢性の首こり』の殆どが日常の生活習慣の中で起こっています。生活習慣というのは無意識に行なっていることが多いため、自分が体に負担のかかる姿勢をしていることに気づきにくいものです。今現在首になんらかの不調を抱えていらっしゃる方は、まずはご自身の日々の姿勢に偏りがないかを検証してみられてはいかがでしょう?

では、次にそれぞれのコリがどこに出てくるのか見ていきましょう。

「下を向くコリ」はたてがみラインに出る

スマホやパソコン等の電子機器の操作に代表される「下を向くコリ」は、たてがみラインと言ううなじから首と肩の境目(下を向いた時に飛び出る大きな骨のあたり)にかけてが顕著です。特に首の骨のキワに太い筋状のコリになって出ます。その中でも頸椎(けいつい/首の骨)の4番や5番目辺りに骨のように固いシコリがある人は間違いなく下を向く姿勢が長い人です。ただ下を向いているだけでなく、頭を前に突き出して下を向いている人は首の骨のキワに加え、首の前の筋肉(胸鎖乳突筋)や前方側面にある斜角筋群が固く太くなっています。また、首の背面にある筋肉は頭部や首の骨から肩甲骨や肩甲骨の間にまで伸びている筋肉もある為、下を向きつづけている人はそれらの筋肉が常時伸ばされているので、肩甲骨の際や肩甲骨の間がツライという方が多いです。

「横を向くコリ」は胸鎖乳突筋、斜角筋群、板状筋に出る。

”横を向き続けている人なんているの?”と思われたあなた。職場のPCモニターは体の正面にありますか?左右どちらかにわずかでもズレていませんか?横をしっかりと向いていなくても、首を左右どちらかに少しかしげた姿勢(書類が左右どちらかに置いてあるなど)を続けるだけでも首には負担がかかります。

以前、修行をしていた鍼灸院でこんな事がありました。自律神経の不調で通院されいた若いお母さん。いつも3歳くらいの娘さんと一緒にいらしていたのですが、ある日その娘さんが”左の首が痛いと訴えるので見てほしい”と言われました。触診したところ、確かに左の首に太いコリがあります。お子さんなので軽い刺激の鍼で治療を行い様子をみてもらったのですが、その次にいらした時もまだ痛いと言っています。この先治療をしてコリ自体が取れても原因を突き止めないと症状は再発してしまうので、お母さんに心当たりを聞いてみましたが、思い当たることはないと言われます。私にもなぜ3歳の子供が首こりになるのかの理由が思いつかず、当の本人に聞いても解るはずはありませんでした。それでもお母さんに色々と質問した結果とうとう解ったのです。その理由が。

それはダイニングテーブルでのお母さんと娘さんの座る位置でした。その方の家のダイニングテーブルは長方形で、お母さんは いつも娘さんの左側に座って食事を食べさせたり、話しかけたりしていました。その為娘さんは正面に向いて座っているのに、顔だけはお母さんのいる方へ向けるので、首を左側にひねらざるを得ない状況になっていたのです。これが丸テーブルだったり、テーブルの角を利用して座っていれば、娘さんは3歳にして「首こり」にならずにすんだでしょう。この娘さんに見られたコリも胸鎖乳突筋のコリでした。胸鎖乳突筋はぐっと顔を横に向けた時に首の側面に浮き出る筋肉です。この筋肉は頭部の回旋にも働きますが、鎖骨を動かし呼吸の補助筋としても働くので、ここにコリが出来ると呼吸に影響を与える為注意が必要です。

「上を向くコリ」は首の骨の真ん中(頸椎4番、5番)あたりに出る。

日常生活の中で上を向き続けている人はさすがに多くありません。当院にいらっしゃる患者さんも植木屋さんや塗装業の方です。一度だけ、市川猿之助のスーパー歌舞伎を見て首を痛めたという方がいらっしゃいました(笑)。筋肉は収縮することで力を発揮する器官です。ある筋肉が収縮(縮む)すると、その筋肉運動とは反対の動きをする筋肉があります。これを拮抗筋(きっこうきん)と呼びます(メインで働く筋肉は主動筋)。拮抗筋は筋肉が円滑な運動をする上でとても重要な働きをしています。上を向くという動作で言うと、頭を上に向けるには、首の後ろの筋肉が縮み、前の方の筋肉はしっかりと伸びていないといけません。これが主動筋と拮抗筋の関係です。上を向いて作業をする人は首の後ろのちょうど真ん中(湾曲が一番深い部分)あたりに頑固なコリがありますが、同時に首の前の筋肉は伸び続けている為、後ろと同様にこっています。筋肉は短縮しても伸縮しても内圧が上がるので、疲労しコリができやすくなってしまうのです。

頭を後ろに倒すと痛いのは鎖骨の位置と胸と背中のコリ

上を向くことが原因で「首こり」になった訳ではなく、頭を後ろに倒した時に「首が張る」「首が痛い」という方がいらっしゃいます。このような方は「上を向くコリ」紹介した首こりに加え、胸と背中(肩甲骨の間くらい)が影響しています。前述したように、筋肉は主動筋と拮抗筋の協調により働いています。頭を後ろに倒すには、首を後屈させる筋肉(後頭下筋群、板状筋、半極筋など)が収縮し、拮抗筋の胸鎖乳突筋がよく伸長しなくてはいけません。頭を後ろに倒すときに痛みを感じる人は首(頚椎)の真ん中あたりが痛いという事が多いのですが、原因はそこにはなく、大体は胸のコリにより鎖骨の角度が通常より鋭角になっていることに問題があります。これは首を後屈させる拮抗筋の胸鎖乳突筋が短縮した時に起こる現象です。試しに両の手の平をクロスして鎖骨を下方向に抑えながら、首を後ろに倒してみてください。痛みがかなり軽減されると思います。頭を上下左右どの方向に倒す時も、倒す方と反対側に圧力がかかってきます。その時に圧力がかかる側の筋群が良く伸びることでしなりを作り、柔軟な動きを出すことが出来るのです。筋肉はバネですから、よく縮んで力を発揮することも重要ですが、拮抗筋がよく伸びることも同じくらい重要なのです。

まとめ

『姿勢性の首こり』 の原因は、頭が正しい位置(ニュートラルポジション)にないこと、頭を上下左右のどちらかに向けた状態を長く続けることでした。この2つはどちらも無意識にしてしまっていたり、生活習慣の中の動作によって起こります。首はとても重い頭を細くて小さな筋群がけなげに支えていることを忘れずに、日々の姿勢に気をつけてください。

ヒューマン・アナトミー・アトラス 画像の使用 @visiblebodyに感謝します。

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