首痛の原因:その5『自律神経の失調による首こり』

治療だけでは改善されないストレス性の首こり

首のこりや痛みと共に、頭がぼーっとする、胃腸の調子が悪い、睡眠障害がある、気持ちが落ち込みやすい、といった症状をお持ちの方は『自律神経の失調による首こり』かも知れません。自律神経の失調による首こりの特徴は、首肩の痛みと不快感に加え、下記のような様々な症状が併発することです。

胃腸障害:胃炎(慢性、神経性)、過敏性腸症候群、食欲異常(亢進・低下)、 胃の不快感、異物感、食道のつかえ、下腹の張り、便秘、下痢など

気分障害:感情的(怒りっぽくなる、すぐに悲しくなる、情緒不安定、変にハイテンションになる)。不安感(理由もなく不安になる。恐怖心に襲われる。人間不信になる)。ネガティブ思考(すぐに悲観的になる。落ち込みやすくなる、些細な事が気になる)。無気力(やる気が出ない。何もしたくない。そんな自分に自己嫌悪になる)。 集中力の低下(何事にも集中することができない。記憶力の低下、物忘れ)など。

睡眠障害:寝つきが悪い、不眠、浅眠、夜間覚醒、夢をよく見るなど。

パニック障害:突然の激しい動悸や息苦しさ。冷汗、ふるえ、立っていられなくなど。

この『自律神経の失調による首こり』は、治りにくく再発する頻度の高い首こりです。なぜなら、首こりを引き起こしているそもそもの原因が精神的、肉体的に緊張状態が続いた結果の心的、身体的な疲労なので、症状の改善には、治療に加えて根本原因であるストレス要因(ストレッサー)の排除が必須だからです。

人はストレスを感じるとなぜ首がこり、自律神経の症状を併発するのでしょうか?その理由は2つ。一つは首に自律神経のブレーキ役である副交感神経が密集しているから。そしてもう一つは自律神経をコントロールする『呼吸』を補助する呼吸補助筋(特に吸気)が首の筋肉だからです。

首は自律神経の密集地

自律神経とは「交感神経」と「副交感神経」という正反対の働きをする2つの神経のことです。よく自動車のアクセル=交感神経とブレーキ=副交感神経に例えられます。この自律神経はその名の通り、自律で働く神経です。体の持ち主である本人の意志とは無関係に、外からの刺激や体内の情報に反応し体の機能をコントロールしています。自律神経は交感神経と副交感神経のどちらか一方だけが働くことはなく、ある時は交感神経が優位に、またある時は副交感神経が優位に働いて、消化器・血管系・内分泌腺・生殖器などの機能を促進したり抑制して、生命活動が円滑にいくように調節しています。自律神経の中でもブレーキ役の副交感神経は頚椎と頭蓋骨の接続部に集中しています。その為、首と頭の境目や首がこると、筋肉の中を走行する自律神経を圧迫し、体の状態を脳に伝える機能や脳から体への指令を送る機能の低下が起こります。このような状態が長く続くと、生体機能をコントロールしている自律神経の失調を招き、全身に様々な異変が生じてきます。自律神経の症状の特徴は、1つの症状だけが現れるのではなく同時にいくつもの症状が出たり、コロコロと症状が変わっていくことです。その為、診療科目が細分化された西洋医学の病院では総合的な治療が難しく、色々な科をたらい回しにされたり、症状ごとの薬を大量に処方されがちです。また身体症状の原因が見つからないと、心の問題として心療内科の受診を進められたあげく、ここでも様々な薬を処方されて「薬漬け」になることも少なくありません。

吸気を助ける首の筋肉群

呼吸(吸気)の補助筋:胸鎖乳突筋、斜角筋群

私たちの生命維持に欠かすことができないのが呼吸です。呼吸は「安静時呼吸」と「努力呼吸」に分類することができます。「安静時呼吸」とは睡眠時やリラックスしている時など、特に意識することなく行っている通常の呼吸です。一方の「努力呼吸」は、呼吸困難時や深呼吸などの深い呼吸をする時、息が上がるような負荷の高い運動をした時に行われる呼吸です。「安静時呼吸」と「努力呼吸」では、関与する筋肉が違います。安静時の吸気時(息を吸うとき)に働くのは、『外肋間筋、横隔膜』です。外肋間筋と横隔膜が同時に収縮することで胸郭を拡げて胸腔内を陰圧にし肺を膨らませます。息を吐く時はこれらの筋肉が収縮を止めて弛緩します。肺は膨らんだゴム風船のように自分で縮む性質をもともと持っているので、外肋間筋と横隔膜が弛緩すると肺は自らの縮む力で収縮して息を吐き出します。

努力呼吸時には、吸気と呼気ともに様々な筋肉が使われます。これらを呼吸補助筋と呼びます。努力呼吸の吸気時に働く補助筋は『斜角筋と胸鎖乳突筋』です。斜角筋は首の前よりの横側にある筋肉で、胸鎖乳突筋は前側の筋肉です。胸鎖乳突筋は、吸気時に胸骨と鎖骨を持ち上げ、斜角筋は肋骨を持ち上げて胸郭の体積を稼ぐことで吸気を助けます。

呼気時に働く補助筋は『内肋間筋、腹筋群(腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋)』などです。腹筋群は、努力吸気時には弛緩して胸腔が膨らむのを妨げないようにします。そして、努力呼気時には、腹筋群が収縮して、胸郭を上方向に押し上げて、胸郭内の体積を小さくして呼気を助けます。

ストレスを抱えている人は総じて呼吸が浅いです。これはゆったりとした横隔膜を使う呼吸が出来ていない為で、特に運動している訳でもないのに、呼吸困難時のように一生懸命酸素を取り込もうと、早く浅い呼吸を繰り返す努力呼吸をしているのです。努力呼吸時は前述したように様々な筋肉を使う為、呼吸におけるエネルギー消費が安静時呼吸と比較して3倍になると言われています。自律神経の失調による首こりの人の多くが「疲れやすい」とおっしゃるのはこの呼吸に原因があるのかも知れません。

症状の改善にはストレッサーの排除が必須

自律神経が失調する原因は、ストレス、生活習慣の乱れ、環境の変化、ホルモン(甲状腺ホルモン・女性ホルモン)にあると言われています。この中でホルモンを除いてはすべて「ストレス」と言えます。ストレスとは「生体に、外傷・中毒・寒冷・伝染病・精神的緊張などの刺激が加わったときに生体の示す反応」のことです。夜更かし、夜間勤務、昼夜逆転の生活習慣など、もともと人体に備わっている体内時計を無視した社会環境やライフスタイルは体に大きな負担がかかるストレッサーです。また結婚や出産、引っ越し、転職、職場での配置転換などの環境の変化も精神的緊張を生むストレッサーになりえます。「ストレス」というと人間関係や仕事のプレッシャーなどがまず最初に思い浮かびますが、夜間に強い光を浴びる、いつも騒音の中にいる、慣れない環境なども体にとっては立派な「ストレス」です。ヒトがストレスにさらされた時の体の反応はこうです。ストレスを受ける→精神が緊張→交感神経が優位になる→血管が収縮→筋肉の柔軟性が低下→体が硬直。ストレス反応が長く続くと全身の筋肉に十分な酸素と栄養が供給されなくなり、慢性的なコリやなかなか解消されない疲労へとつながっていきます。首こりの治療では、鍼の刺激で固くなった筋肉を緩め、その部分への血流改善を行うことはできますが、血流を阻害しているもともとの要因まで改善することはできません。治療をしても一向に症状が改善しない、精神的な緊張があっていつも心が落ち着かない、といった状況にある人はご自身の「ストレッサー」が何かを探してみてください。そしてその排除に努めてください。合わない職場、合わない上司や部下、同僚といったストレッサーはなかなか排除が難しいかも知れませんが、付き合い方を変えてみる、考え方を変えてみるといったことで精神的な緊張が少しでも緩和されると、体の反応も好転していきます。

まとめ

『自律神経の失調による首こり』を起こしているのは「ストレス」。「ストレス」は人間関係だけでなく、夜間に強い光を浴びる、いつも騒音の中にいる、慣れない環境なども「ストレス」で人体に様々な影響を与えています。ヒトはストレスにさらされると、精神が緊張して交感神経が優位な状態となり、血管は収縮し体が硬直、呼吸も浅くなります。この状態が長く続くことが首こりへとつながっていくのです。『自律神経の失調による首こり』の改善には鍼治療だけでは不十分で、「ストレス」を引き起こしている「ストレッサー」の排除が必須です。自分はいま精神的な緊張状態にないか?のストレッサーチェックをご自身で行って、ストレスの元が見つかったらその排除に努めましょう。

ヒューマン・アナトミー・アトラス 画像の使用 @visiblebodyに感謝します。

関連記事

  1. なかなか治らない首痛を起こす5つの要因

  2. 動きと姿勢を制御する『深層筋』とは

  3. 腰痛を知り己を知れば百戦あやうからず

  4. 首痛の原因:その1「姿勢性の首こり」

  5. 痛みの発信源『トリガーポイント』とは

  6. 首痛の原因:その4『食いしばりによる首こり』