深層筋という筋肉はない
まず始めに、解剖学的に筋肉を表層筋(アウターマッスル)や深層筋(インナーマッスル)といった深さで分類することはありません。
表層筋(アウターマッスル)、深層筋(インナーマッスル)という分類は、もともとフィジカルトレナーが筋トレを指導する際に便宜的に使われていた用語が、エクササイズやダイエットをテーマにしたマスメディアで取り上げられ、広く一般に認知されるようになったのが始まりと言われています。
気をつけていただきたいのは深層筋=体幹ではないということ。体幹とは身体から頭と手脚を取りのぞいた、いわゆる胴体のことです。深層筋の多くは体幹にありますが、首や手脚にも深層筋はあるのでお間違いのないように。
見た目の体をつくる表層筋(アウターマッスル)
表層筋は皮膚に近い場所にある目で見える筋肉群です。歩く、走る、投げる、持ち上げるなど、動作時に主に力を発揮する筋肉です。
筋肉名でいうと、僧帽筋、広背筋、上腕二頭筋、大胸筋、腹直筋、大殿筋、大腿四頭筋などが表層筋に分けられます。
表層筋は重い荷物を持ち上げたり、ダッシュで走ったりする時など、瞬間的に大きな力を出すことができるものの、エネルギー消費量が多いため、その力を継続し続けることはできません。組織の老化が早く、20歳前後から急速に衰える(痩せる)筋肉といわれています。表層筋は外から筋肉の形が解るため『見た目の体』を作る筋トレのメインターゲットです。
動きと姿勢を制御する深層筋(インナーマッスル)
一方の深層筋は、骨や関節、背骨の周辺といった身体の深い場所にある筋肉の総称です。立ち上がりや動き出し、じっとしている時などに骨や関節を支える役割をしているため、私たちが起きて活動している時は常に働いている筋肉です。
筋肉名でいうと、後頭下筋群、脊柱起立筋群、腹斜筋、腸腰筋、外旋六筋、ヒラメ筋などが深層筋に分けられます。
深層筋の収縮のスピードは比較的遅く、大きな力を出すことはできませんが、疲れにくく長時間にわたって一定の力を維持することができます。深層筋は外からは形も働きも確認することはできませんが、私たちの体の土台、動きの土台となっているとても重要な筋肉です。深層筋は表層筋と比べて、年齢を重ねても衰えにくい筋肉といわれています。
表層筋と深層筋の対比表
これまで書いた表層筋と深層筋の違いを表にまとめると以下のようになります。
表層筋(白筋、速筋) | 深層筋(赤筋、遅筋) |
体の表面=皮膚に近い場所 | 体の深部=骨や関節周辺 |
収縮持続時間が短い | 持久性に富む |
疲労しやすい | 疲労しにくい |
エネルギーは主に糖の分解で産生する | エネルギーを有酸素代謝によって得る |
毛細血管の分布は少ない | 血管分布が比較的豊富 |
ミトコンドリアが少ない=基礎代謝が低い | ミトコンドリアが多い=基礎代謝が高い |
加齢や運動不足で容易に萎縮(やせる)する | じっとしていると硬くなる傾向にあり |
常に強化運動が必要である | 定期的に伸展させる必要あり |
深層筋の役割
深層筋の役割1.姿勢の保持
深層筋の最も代表的な役割は姿勢を保持することです。
姿勢とは、重力に対してバランスを取っている時の体のこと。私たちは横になって眠っている時以外はつねに重力の影響を受けているので、その力に抵抗しながらあるべき姿勢を保ち続けています。
「姿勢の保持」という時に深層筋が具体的に支えているのは骨格です。
人体には約206個の骨があって、それらは様々な形の関節で連結され骨格となっています。この骨格という人体の基礎構造をしっかりと安定させ、表層筋が大きな力を発揮する時も動揺しないよう支えているのが深層筋です。
深層筋の役割2.フィードバック制御
フィードバック制御とは、動きに合わせて関節の位置調整をする機能のこと。
関節とは骨と骨をつないで骨格の動き(体の動き)を可能にしています。それぞれの関節には「運動範囲」というものがあって、動かせる方向と角度が決まっています。この関節の位置を様々な動作に合わせて最適に保っているのが深層筋です。
深層筋が刻々と変化する外部環境に応じて関節の位置調整が出来るのは、深層筋に備わった情報センサーがあるから。深層筋には固有受容器という身体の位置や動きに関する情報を脳にもたらす感覚神経細胞が多くあります。
筋肉を動かしているのは脳からの指令を体に伝える運動神経ですが、身体の状態をモニターしその情報を脳に伝えているのは感覚神経です。私たちがロボットのようにカクカクした動きではなく、スムースに動けるのは、運動神経と感覚神経が一対となって制御されているからなのです。
深層筋の役割3.フィードフォワード制御
フィードフォワード制御とは、次の動きに備えた構えを作る機能のこと。体が外から受けた刺激を情報として脳に送ることで運動の修正を図ります。
フィードバック制御が、体→脳→体という流れだったのに対し、フィードフォワード制御は、脳が次に必要となる動きを経験から導き出し、その動きを円滑にできるよう体を準備する、脳→体で調整するシステムです。例を挙げると、テニスでサーブを受ける時、すぐに走り出せるよう体幹を固め脚の筋緊張を高める。つまずいて転びそうになった時は両手を前にだして腕の緊張を高めておくなど。
フィードフォワード制御は、その人がこれまでに「身をもって経験した:情報をもとに体をコントロールしています。なので、繰り返し行っている動きは経験値が増して『フィードフォワード制御』がより正確になるので、動きが迅速かつスムースになります。スポーツ選手がよく口にする“頭で考える前に体が反応した”というのは、このシステムのおかげですね。
深層筋が原因で起きる症状
深層筋の2大役割は「骨格を支えて姿勢を保持する」「関節の微調整」です。
深層筋を障害したり、機能が低下すると以下のような症状がみられます。
- 体が安定しない
- 動き始めに痛みがでる
- 身体がスムースに動かせない
深層筋は目には見えず動きも実感することが難しいので、自分の深層筋の衰え具合を知るのは難しいです。そこで、深層筋が衰えている時に見られる現象を以下に挙げてみました。ご自身の深層筋の機能がどのくらい低下しているのかチェックしてみてください。✔数が多いあなた、要注意です!
あなたは大丈夫?深層筋の衰え度チェック
✔首や肩がこりやすい
✔首をバキバキ鳴らしたくなる
✔ついつい頬杖をついてしまう
✔ちょっとした段差でつまづく
✔お腹がポッコリつきでている
✔地面に落ちたモノを拾うのがつらい
✔背筋を伸ばした正しい正座が出来ない
✔座ると知らずに脚が開いている
✔いつも肩が上がっている
✔背もたれのない椅子に座っていられない
✔美容院でのシャンプーがつらい
✔片足立ちができない
✔軽くぶつかられただけで転びそうになる
✔走り始めに脚がカクンとなる
✔よく足をくじく
✔和式トイレがつらい
✔尿のキレが悪い
深層筋の治療で得られるもの
現代人は座っている時間が長く、動きがパターン化しているので深層筋の機能が低下しがちだと言われています。深層筋を治療し、健康に保つことで以下のような効果が得られます。
- 動き始めの痛みが改善する
- 関節の可動域が広がる
- 血流が良くなる
- 疲れにくくなる
- 姿勢が良くなる
- スポーツのパフォーマンスが向上する
- 基礎代謝が上がり太りにくい体質になる
- 下腹部に脂肪がつきにくくなる
- 自律神経の機能が安定する
当院は、指では触れることのできない深層筋をターゲットにしたはり治療の専門院です。