筋筋膜性疼痛症候群とは筋肉が原因の病気です
筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome = MPS )は、私たちが通常「コリ」と呼ぶ筋肉が硬くなった状態が慢性化して、痛みやしびれ、自律神経の乱れなどを引き起こす病気のことです。日本ではまだ医師、患者の双方で認知度が低く、筋肉の状態は画像には映らないため、ヘルニアや脊柱管狭窄症といった構造の異常と診断されることもあります。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の特徴は、筋肉内に『トリガーポイント』が生じていることです。
『トリガーポイント』とは『痛みの引き金』のこと。『トリガーポイント』がある場所を押すと、痛みや不快感を局所的に感じたり、あるいは他の場所に感じたりします。『トリガーポイント』は、何らかの原因で、痛みを感じるセンサーが過敏なって生じると考えられており、 筋肉・筋膜・腱・靭帯・骨膜など、体の色々な場所に形成されます。
筋筋膜性疼痛症候群の原因
筋筋膜性疼痛症候群が発症する原因は様々で、多くの場合、複数の要因の組み合わせによって起こります。
1.一過性の外力:大きな力が急激に体にかかる
例)交通事故、スポーツでの衝突、転倒、ムチウチ、寝違え、ぎっくり腰、打撲、捻挫、外科手術など。
2.継続的な外力:同じ力が特定の筋肉に繰り返しかかる
例)悪い姿勢、脚長差、骨格の非対称、長時間の同一姿勢、反復する動作、不正咬合、喰いしばり、肉体労働、過度な筋トレなど
3.ストレス:精神的な緊張によって体が硬直し、それが継続的な外力となる
4.筋肉の量と質の低下:老化、運動不足により外力(重力)に対応できなくなる
5.栄養不良:栄養のアンバランス、欠乏が筋肉や筋膜の異常を招く
筋筋膜性疼痛症候群の症状
筋筋膜性疼痛症候群は、全身のどの筋肉にも起きる病気です。
筋筋膜性疼痛症候群の痛みは、通常1,2か所に限局した筋肉痛で、特に首、肩、背中、腰、お尻といった脊柱起立筋群に生じることが多いです。
全身が同時に痛み、しびれが発生することは基本的にはありません。しかし、限局した筋肉からの関連痛として広い範囲に痛み、しびれを感じる時もあります。
また痛み、しびれを感じる部位が、時間の経過と共に移動したり、広がっていく事があるのも、筋筋膜性疼痛症候群の特徴の一つです。
筋筋膜性疼痛症候群の代表的な症状
- 局所的な痛み(首が痛い、腰が痛い、膝が痛いなど)
- 関連痛(首を倒すと腕がしびれる、前かがみになるとお尻から下肢にしびれが出るなど)
- 関節の可動域制限(首が曲げられない、腕があがらない、膝が伸ばせないなど)
- 筋力の低下(動き始めに痛い、階段の昇り降り時に痛む、力が入りにくいなど)
- 自律神経の障害(痛みによる睡眠障害、胃腸障害、気分障害など)
- 固有感覚の障害(めまい、ふらつき、よく転ぶなど)
- 浮腫(むくみ)
筋筋膜性疼痛症候群によく似た病気
筋筋膜性疼痛症候群の概念は、1980年代にアメリカの医師により発表された比較的新しいものです。それまでは運動器(身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称)の痛みは、画像検査で確認できるヘルニアや狭窄症といった構造の異常が原因と考えられており(構造異常モデルといいます)、現在でも日本の医師教育ではこの「構造異常モデル」をもとに学生の指導・育成が行われているそうです。その為、医師でも筋筋膜性疼痛症候群の存在を知らない人がいて、以下のような病気と間違えて診断される場合があります。
筋筋膜性疼痛症候群によく似た病気 ※他の疾患と合併していることもあります
- 緊張性頭痛
- 偏頭痛
- 顎関節症
- 舌痛症
- 頚椎症
- 頚肩腕症候群
- 石灰沈着性腱板炎
- 胸郭出口症候群
- 五十肩
- 肩関節周囲炎
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 手根管症候群
- 腱鞘炎
- 椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 腰椎すべり症
- 坐骨神経痛
- 変形性股関節症
- 変形性膝関節症
- 半月板障害
自律神経失調症を併発した場合、以下のような病名がつくこともあります
- メニエール病
- 起立性調節障害
- パニック障害
- うつ
- 更年期障害
- 慢性疲労症候群
- 機能性胃腸症
- ドライアイ
筋筋膜性疼痛症候群の判断基準
筋筋膜性疼痛症候群は、日本ではいまだその存在を認めていない医師がいるので、一般の医療機関では診断、治療が困難なのが現状です。病院を受診される場合は、事前の確認をおススメします。
ここでは専門書を元に、私の施術経験を加えた筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の判断基準をご紹介します。
- 筋肉内に索状硬結(ピンと張ったコリ、筋状のしこり)がある。
- コリを押されると、鋭くor鈍く痛いポイントがある。
- ストレッチしようとしても、痛くて伸ばせない。
- 痛い場所が段々広がっている
- 右半身全部or左半身全部に痛みや違和感がある
- 体が引っ張られる感覚がある
- 関節を曲げたあとに伸ばしづらい
- 日によって痛みが移動する
- 触るとor動くとあちこち痛い
- 夕方に症状が強く出る
- コリと共に気分障害、胃腸障害が出る
筋筋膜性疼痛症候群の治療法
筋筋膜性疼痛症候群の治療において最も重要なのは、『トリガーポイント(索状硬結)』を取りのぞくこと、そして、硬くなった筋肉を本来の柔軟性と弾力性のある組織に戻せるかです。
臨床の現場では、以下の物理療法、トリガーポイント療法、運動療法、認知行動療法が治療の中心となっていて、薬物療法は限定的に使用されています。今のところ筋筋膜性疼痛症候群に有効な内服薬はありません(個人的には内服薬で筋肉の損傷が治ることはないと考えています)。また慢性痛患者へ安易に鎮痛薬や抗うつ薬などの向精神病薬を使用することは世界的に注意喚起されています。
1.物理療法
温パック:リラックス効果と血液循環の促進
超音波・低周波:温熱や振動による血管の拡張
マッサージ:リラックス効果と血液循環の促進
Facia(筋膜)リリース:徒手(手技)や器具を用い、Faciaの異常を解消
2.トリガーポイント療法
トリガーポイント注射:トリガーポイントに局所麻酔薬や生理食塩水を注射することで、索状硬結を取りのぞき、血行を促進する。
トリガーポイント鍼刺入法:トリガーポイントを針で刺激し、索状硬結を取りのぞき血行を促進する。
はり治療:東洋医学のある種の鍼治療(経絡理論を用いないもの)、ドライニードリンク(dry needling)、筋肉内刺激法(intramuscular stimulation:IMS)
3.運動療法
ストレッチ:筋や関節を伸ばすことによる筋の柔軟性、関節の可動域の回復、血液循環の促進。
筋力強化運動:適度な運動とスポーツによる運動機能の回復
固有受容トレーニング:筋と脳との促通力の強化。特に平衡、姿勢、関節の調節を強化する為にトランポリンや平行棒、バランスボールなどが有効。
4.認知行動療法
痛みについての誤った認識を修正する「認知療法」と、痛みと行動の関係を知って日常生活でできることを増やしていく「行動療法」を組み合わせた治療法。
筋筋膜性疼痛症候群の原因であるコリ(筋肉の緊張)には、進行度によってステージがあります。ご自身のステージに合った治療法を受けることが早期の症状改善につながります。
当院では、マッサージや整体では改善しない筋筋膜性疼痛症候群の改善を専門にしております。
なかなか改善しない症状でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。